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東京地方裁判所八王子支部 平成10年(モ)2221号 決定 1998年12月11日

主文

本件申立てを却下する。

理由

一  本件申立ての要旨及び相手方の意見の要旨

申立人は、当庁平成八年(ワ)第二三六九号損害賠償請求事件において、相手方の別紙融資目録記載の各融資行為(以下「本件各融資」という。)が、被告らの善管注意義務ないし忠実義務に違反してなされた事実を立証するために、別紙文書目録記載の各文書(以下「本件各文書」という。)が必要であり、かつ、本件各文書は、民訴法二二〇条三号後段及び四号に該当すると主張して、相手方に対し本件各文書の提出命令を求めている。

これに対し、本件各文書の所持者である相手方は、本件各文書は、いわゆる自己使用文書であり、同条三号後段に該当せず、また、同条四号ハに該当し、提出義務はないと主張する。

二  当裁判所の判断

1  民訴法二二〇条三号後段の「挙証者と文書の所持者との間の法律関係について作成」された文書(以下「法律関係文書」という。)とは、挙証者と所持者の間の法律関係自体もしくはそれに関連のある事項を記載した文書をいい、文書の所持者が専ら自己使用のために作成した文書はこれに当たらないと解するのが相当である。

これを本件についてみると、本件各文書(稟議書及び意見書)は、相手方が第三者である本件各融資の融資先に本件各融資をする過程で作成されたものであるに過ぎず、申立人と相手方との間の法律関係に関連のある事項を記載した文書とはいえない。

したがって、本件各文書は法律関係文書に該当しない。

2  次に、本件各文書が専ら文書の所持者の利用に供するための文書に該当しないといえるか否かにつき、以下、判断する。

(一)  審尋の結果によれば、本件各文書は、いずれも法令によって作成を義務付けられている文書ではないこと、本件各文書は、本件各融資に至るまでの間の相手方と融資先との交渉経過を報告的に記載したものではなく、むしろ、相手方の融資先に対する融資の許否の判断の基礎となる事実と、それに基づく相手方融資担当者、担当理事らの判断とが記載され、かつ、融資先のプライバシーに関わる事項も記載されているものと推認される文書であり、したがって、相手方が、右融資に際し、相手方内部の意思決定の便宜のために作成した内部文書に過ぎないことが認められる。

右認定事実によると、本件各文書は、民訴法二二〇条四号ハの「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」に該当するというべきである。

(二)  これに対して、申立人は、稟議書及び意見書は、信用金庫と理事との関係では委任事務処理状況を記載した報告文書の役割を果たし、理事への損害賠償責任の有無を検討するにあたって重要な資料となるべきものであるところ、会員代表訴訟は、理事に対する責任追及を行わない信用金庫に代わって会員が直接理事に責任追求を行う制度であって、会員は、信用金庫法上、理事の業務遂行を監督することを特に期待されているというべきであり、信用金庫が理事に対して責任追求の訴えを提起した場合との均衡や文書提出義務の一般化が図られた民訴法改正の趣旨等に照らすと、稟議書及び意見書は、少なくとも会員代表訴訟を提起した会員に対しては、公表されることが予定されていると見るべきであり、「専ら」文書の所持者の利用に供するための文書ということはできない旨主張する。

しかしながら、右(一)に認定の事実によると、本件各文書は、相手方の融資担当者及び担当理事らに回付して信用金庫内部の意思形成を行うために作成されたもので、理事から相手方に対する委任事務処理状況の報告や理事に対する責任追及を予定して作成されるものではなく、少なくとも相手方の判断に基づかずに外部に公表されることが全く予定されていない文書というべきであるから、申立人の右主張は採用できない。

三  以上の次第で、申立人の本件申立ては理由がないからこれを却下することとし、主文のとおり決定する。

(別紙)

融資目録

<省略>

文書目録

相手方の本件各融資に際して作成された一切の稟議書及びこれらに添付された意見書

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